舞浜海洋国家

東京ディズニーシーの建築やBGSについてつらつら書くブログ

チェインバー・オブ・プラネットの壁画について

こんにちは!ボンジョルノ!

今回の記事は前回の記事(リンク先参照)の続きになっています!ぜひそちらもご覧ください...!

tsubasan0924.hatenablog.com

さて、前回に引き続きチェインバー・オブ・プラネットについて扱っていこうと思いますが、今回はこの部屋の壁画について見ていきましょう。

壁画

前述のように、チェインバー・オブ・プラネットには壁一面に壁画、というより何かの図が描かれています。

壁には何かの図が描かれています

この壁画については公式ブログでも言及されているので、よろしければ参照してみてください。

www.tokyodisneyresort.jp

リンク先の公式ブログの記述を引用すると、

これは、当時の天文学者に知られていた天体と惑星の現象を示す科学図や星座図。

とのことです。なるほど。ちなみに先に言っておくと少なくとも星座図ではありません。公式ブログ...

壁画は全部で10個あるのですが、実際は5種類が2セットになっているので壁画自体は5つです。ここでは便宜上A~Eまでの記号をふります。

一応各図における解説を入れますが、なにぶん僕が理系分野に関して完全に素人であるため間違ったことを言っている可能性が非常に高いです。予めご了承ください🙇‍♂️

壁画A

壁画A

まずはこちら。これらとそっくりな図が、皆さんご存知レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)が残したとされる手稿に残されています。彼の手稿を集めて解説したフランスの学者ジャン・ポール・リヒターの書"The Literary Works of Leonardo Da Vinci"(以下同書)にてその図を見ることができます。壁画A〜壁画Dに関しては全てこの本が元ネタとなっています。要はこれら壁画の大半はダ・ヴィンチが書いたものだということですね。以下同書から引用した画像を併せて紹介します。詳しくはリンク先を参照してください。

第一巻

archive.org

第二巻

archive.org

壁画A中心の図

まずは真ん中の大きく書かれた図、これは上記の書における「派生した影の形について」の169項の挿図として描かれているものです。2つの物体があったときに光源に近いもの(上の球)は光があたる範囲が大きいため、相対的に影の部分が小さくなり派生した影も小さくなる、反対に光源にから遠いもの(下の球)の影は大きくなるよーという図です。

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
92ページより

 

壁画A左の図 目と線が描かれています。

続いて壁画Aの左にある図、こちらは同書「消失の遠近法」の項の224項の挿図です。非常に遠くにあるものはその詳細が削ぎ落とされ、小さな点としてしか視覚情報として認識できないことを表しているらしいです。

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
108ページより

 

壁画Aの右にあるのは同書第2巻の875項にある図が元ネタです。ダ・ヴィンチは月が自ら光を発しているわけではなくそれが太陽光の反射によるものであることを既に突き止めていました。ただ、彼は月には水があり、その波によって月は光を反射しているのだと考えていたと言われています。その研究の一環として波が立っている水面に太陽が光を発するときの光の反射の仕方を表しているがこの図だそうです。波が立っている水面に写った像は実際よりも大きく見えることを図示しています。

壁画A右の図

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅱ』
144ページより
 
壁画B

壁画B

真ん中の大きな図は、先程の壁画Aにも登場した「派生する影の形について」の173項が元となっています。1つの窓から光が差し込む部屋に置いて、真ん中に置かれた物体と斜めに置かれた物体の影の長さの違いを表しています。真ん中のものは照らされる範囲が大きいため影は小さくなり、反対に斜めに置かれたものは照らされる範囲が小さいため相対的に影は大きくなる的ことを示しているということです。

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
92ページより

 

壁画B左下の図

壁画Bの左下にある図は、同書1巻162項の「陰影」の項の説明として描かれているものです。「物体の派生した影には3種類あり、1つ目は広がるもの、2つ目は柱状、3つ目は2つの辺が合流して交差する地点に収束し、その交差点を超えると辺は無限に伸びるか、直線になるものである」とこの項では述べられています。

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
92ページより

 

続いて左上の図(下記写真)は同書第2巻の867項「地球が星であることを証明する方法」に描いてあるものです。真ん中が地球、そのまわりの線が「火の球」(原文だと"sphere of fire")、さらにその外が月(もしくは太陽)の軌道を示しているとのこと。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスはそれ以前のエンペドクレスのものをもとにして、世界は火、空気、水、土でできているという四元素説を唱えました。月の下(月下界)にはそれぞれの元素の領域があるとされており、その一番外側の領域が火の領域だとされているんですね。アリストテレスのこの考えはその後のイスラーム、ヨーロッパ世界へと引き継がれていき、ここでいう「火の球」は火の領域のことを指しているのでしょう。

壁画B左上の図

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅱ』
140ページより

 

壁画Bの右に描かれているのは、同書第2巻の869項「遠近法」の挿図です。眼球が凸型をしていることで、遠くのものが小さく見えることを表している図だとのこと。目に届く光が屈折して交差している様子が描かれています。

壁画B右の図

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅱ』
141ページより
 
壁画C

壁画C

さて、続いては壁画Cの中心の図から見ていきます。やたら線が引かれているよくわからない図ですね。こちらは同書1巻「光と影の相対的な割合について」の項の216項の図です。見ての通り非常に複雑な図で、僕自身まったく理解できていませんが、要は影の落ちる角度と影の強さの関係を説明している図だとのこと。ちょうどより光線が多く当たる物体がより明るくなるのと同じで、より多くの影が落ちる物体はより暗くなるということが述べられています。

壁画C 中心の図

ちなみにこちらの図、以下の元ネタの画像と比べて、壁画のものは反転していますよね。ダ・ヴィンチは文字を反転させて、要は鏡文字で書いていたことで知られています。これには彼が左利きだったからなどと様々な説や要因が考えられますが、以下の画像もよく見てみるとアルファベットや数字が反転していることがわかります。チェインバー・オブ・プラネットにあるものは書いてある文字をわかりやすくするためか、あえて反転させて描かれているんですね。

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
108ページより

 

続いて壁画C下の図を見ていきましょう。これは同書第1巻の「目の位置に関する光と影」の141項のもの。原文には「発光体と眼球の間にある遮光体は、すべて暗く見えることになる。」という説明があります。後ろから光が当たっていても、目に見える物体の範囲は暗いままということでしょうか。

壁画C 下の図

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
38ページより

 

壁画Cの上にある2つの図は同書第1巻の「派生する影の複雑化」の項の187項のものです。窓の脇の影が、窓から差し込む光と様々な程度の影と混ざり合うことで、影の深さが様々になることを示しているとのことです。

壁画C 上の図

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅰ』
92ページより
 
壁画D

壁画D

『The literary works of Leonard da Vinci Vol.Ⅱ』
159ページより

続いて壁画Dですが、これらの図は全て同書第2巻「月」の項の897項のもの。太陽の光を反射した月が地球からどう見えるかを示しているのですが、図をよく見てみると、中心は地球でその外側に月、光を発している太陽はそのさらに外に描かれています。そうです。ダ・ヴィンチは当初地球を中心とする天動説を信じており、後に地動説が正しいと考えるようになったと言われています。なのでこの部屋自体は地動説を体現しているのに、その壁画の一部は天動説を示しているんですね。中々面白いです。ちなみに壁画Aで述べた、月の表面が液体で覆われているため太陽の光を反射しているというダ・ヴィンチの説はこの項でも述べられています。

ちなみにこの図に関しては元ネタの元ネタ(?)が判明していまして、1506〜1508年頃に成立したとされるアランデル手稿の「天体にまつわるメモとスケッチ」が元になっています。現存するものが大英図書館にて蔵書されていますが、過去に日本にも来ていたようですね。(下記リンク参照)

www.oricon.co.jp

壁画E

壁画E

最後の壁画Eですが、冒頭でも述べた通りこちらの図のみレオナルド・ダ・ヴィンチの描いたものではありません。では誰の図なのかというとこれもまた有名なガリレオ・ガリレイ(1564〜1642)の研究を示した図で、「金星の満ち欠け」を示した図とのこと。ガリレオは前回の記事でも登場しましたね。ただこの図はガリレオ本人が描いたものではなく、スイスの数学者であるマティアス・ヒルツガーター(1574〜1654)が『DETECTIO DIOPTRICA, Corporum Planetarum Verorum』にてガリレオの発見を基に描いたものとされています。(下記画像)

『DETECTIO DIOPTRICA, Corporum Planetarum Verorum』
35ページより

ガリレオは望遠鏡で金星が凸型から三日月型に変化する様子を発見し、ここからコペルニクスの地動説を支持するようになったと言われています。壁画Dの図とは対照的にこちらは太陽中心の地動説を示したもの。壁画の図には"Terra"(地球)、"Luna"(月)、"Mercurius"(水星)、"Venus"(金星)などと書かれています。リンク先に元ネタの画像や詳細が載せられているので参照してみてください。

books.google.co.jp

cayocesarcaligula.com.ar

完全に余談ですが、一昔前のTVドラマ『ガリレオ』のDVDボックスやレーベルにほぼ同じ図が描かれていたりします。

tower.jp

 

終わりに

ということで今回の記事では、チェインバー・オブ・プラネットの壁画の元ネタの紹介ととその解説をしていきました。この部屋の壁画はずっと何なのか気になっていたのですが、色々検索してみても具体的な説明をしているものが見つからず...それなら自分でそれを突き止めようと思った次第で、なんとかこの記事を書き上げました...!(画像検索してみても全くヒットしないものも多々ありかなり大変でした...)

ここまで読んでくださりありがとうございます!!当ブログではまだまだ書きたいことがたくさんあるので、ペースはあまり早くないとは思いますが、少しずつ更新していきますので今後ともよろしくお願いいたします🙇‍♂️またお会いしましょう!

それでは!