舞浜海洋国家

東京ディズニーシーの建築やBGSについてつらつら書くブログ

チェインバー・オブ・プラネットを探求する

最近BGS会なるものに招待いただいてから、ディズニーに詳しい方々と会う機会も増えてきて、とても刺激をいただいております。(そしていい加減ブログを更新しようと決意できました。)改めてありがとうございます!

 

さて、当ブログでは常々フォートレスについての記事を書いています。一応説明すると、フォートレスとは東京ディズニーシーのアトラクション「フォートレス・エクスプロレーション」のことで、S.E.A.という組織が拠点とする大航海時代の要塞を自由に探検できるアトラクション、施設のことを指しています。フォートレスの中にはいくつかの部屋があるのですが、その中の一室チェインバー・オブ・プラネット』をご存じでしょうか。

フォートレスの一室
チェインバー・オブ・プラネット』

そうです。みんな大好きなあの部屋です。中心に巨大な太陽系儀があり、天井には無数の星空が描かれ、荘厳な音楽が流れるあの部屋のことです。幻想的なプラネタリウムのような場所で、めちゃめちゃ綺麗ですよね!!!現在もフォートレス内で配布されている公式のペーパーには以下のように紹介されています。

ロマンスを追い求める者は「チェインバー・オブ・プラネット」に入ってみるがいい。惑星を動かしてはるかな宇宙に思いをはせてはいかがだろうか。

いい文言ですね。僕自身東京ディズニーシーの中で1番と言っていいほどお気に入りの場所でありまして、リハブ期間を除き、パークに行った際には必ず訪れる場所です。皆さんの中にもこの場所が好きな方多いのではないでしょうか。

今回はそんな『チェインバー・オブ・プラネット』についてとことん探求して、思うがままに綴りまくっていこうという記事です。しばしお付き合いくださいませ...!

概要

まず『チェインバー・オブ・プラネット』がどのようなものなのかについて改めて説明したいと思います。なお、この部屋の時代設定については公式ガイドブック等の表記からひとまず16世紀と仮定します。

16世紀といえば当時のヨーロッパはルネサンスのさなか。そんな中、ポーランド天文学者ニコラウスコペルニクス(1473~1543)が衝撃の発表をします。彼が死に際に出版した著作『天球の回転について』(1543)では、当時のヨーロッパで当然のように信じられていた天動説(地球が宇宙の中心で、そのほかの天体はすべて地球を中心に回るっているとする説)を真っ向から否定する地動説(太陽系の中心は太陽であり、地球はその周りを回る一つの天体にすぎないとする説)が説かれています。(実際には彼は1510年頃には、「コメンタリオルス」と呼ばれる地動説を説いた論考を仲間内には公表していました。)

太陽を中心とする地動説

コペルニクスは科学的な観測に基づき地動説の方が正しいという結論に至りますが、当時の社会では古代の天文学者プトレマイオスの完成させた天動説が伝統的に採用されており、またキリスト教社会の中で地動説は聖書の記述とも矛盾するため、彼の発見は当時の社会に歯向かったものになります。(コペルニクスが死去する際まで著作を発表しなかったのはその批判を恐れたためとされています。)

実際、後に地動説を説いた、かのガリレオ・ガリレイ(1564~1642)が宗教裁判にかけられ断罪されたという逸話はよく知られていますよね。ただ実際には、彼を支持する宗教人も多く、彼の裁判には三十年戦争に突入する社会情勢の中で、教皇の権力争いなどが絡んでいたとされています。一概に宗教vs科学の構図があったとは言えないんですね。

ja.wikipedia.org

前置きが長くなりましたが、要はその地動説が体現されているのがこのチェインバー・オブ・プラネットなのです。この部屋には中心に太陽が置かれ、その周りを水星、金星、地球、火星、木星土星という6つの惑星が回っている様子が再現されており、その動きをを手元のハンドルで操作することが出来ます。なお現在太陽系の惑星に含まれる天王星海王星がないのは当時まだ発見されていなかったからと言われています。

部屋の中心の太陽系儀。
ちなみに個人的にお気に入りの1枚です。

現在の我々からしたら太陽系の中心が太陽であるのは当然ですが、そうは考えられていなかった時代においてこのような巨大な太陽系儀はかなり時代を先取りしていたものといえます。そんなルネサンスの叡智が詰まっているのがこの部屋なんですね!

 

ちなみにこの部屋のちょうど下に位置するレストラン『マゼランズ』にはこの太陽系儀の模型が飾られていたりします。ほしいぃ〜

『マゼランズ』にある模型。素敵です。

6つの惑星

それではこの部屋について細かく見ていきましょう。まずは先ほど述べた6つの惑星についてです。これら6つの惑星にはそれぞれ対応したハンドルがあり、その前には各惑星の説明が書かれたパネルがあります。せっかくなのでパネルも一緒に見ていきましょう。

ちなみに惑星は太陽に近ければ近いほど、その重力に引き込まれないようにするために速く公転すると言われています。この部屋でもその速さの違いが再現されており、内側の水星はハンドルを少し回しただけでかなり進むのに対し、一番外の土星はハンドルをちゃんと回さないとなかなか進んでくれない、という風に作られていたりします。芸コマ。

太陽の周りには各惑星が
水星

水星、一番小さいです。

まずは太陽系の一番内側を公転する星、水星です。大きさ、質量ともに太陽系の惑星の中で最小とされています。

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水星(マーキュリー)は、ローマの神々に仕える俊足の使者メルクリウスを称えて命名された。

メルクリウスとはギリシャ神話でいうヘルメスのことです。オリンポス12神の1人に数えられていて、商業や旅人のほか、盗人の守護神でもあります。彼は全神々の中で最速を誇ることから、太陽系で最も公転の速い水星にはぴったりの名前ですね。

金星

金星、金色といわれれば金色っぽい。

金星は太陽系の中で地球のすぐ内側をまわる惑星。大きさ、質量ともに地球と近いと言われています。

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金星(ヴィーナス)は太陽から2番目の惑星で、ローマ神話の美と愛の女神ウェヌスを称えて命名された。

ウェヌスギリシャ神話でいうアフロディーテのこと。ルネサンス絵画の巨匠ボッティチェリが描いた『ヴィーナスの誕生』に描かれているのも彼女ですね。某イタリアンレストランで一度は見たことある人も多いんじゃないでしょうか。

地球

地球、細かいですが陸地や月なんかもしっかりありますね

地球です。水の惑星とだけあってしっかり青。やっぱり地球は青かったんですね。

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地球は5番目に大きい惑星である。 いまだ論争を引き起こす話題ではあるが、 我々は地球が地軸を中心に自転しながら、 他の惑星と共に太陽の周りを回っているという、 コペルニクスの地動説を支持する。

ここにきてコペルニクスのことが言及されました。やはりS.E.A.はコペルニクスの地動説を支持しているようです。「いまだ論争を引き起こす話題」であるとも言っていますね。実際コペルニクスガリレオの地動説は瞬く間に科学界を席巻したわけではなく、16~17世紀当時まだ多くの人が天動説を信じており、大学でも天動説が教えられていたと言われています。当時S.E.A.は天文学に関しては少数派だったわけです。

火星

火星、よく見ると左上に小さな衛星が。
画質悪くてスミマセン...

火星です。地球のすぐ外側を回る惑星ですね。創作物などにもよく登場する、馴染みのある惑星です。水があったとされる痕跡が見つかったり、移住計画があったりと何かと話題になります。

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火星 (マーズ)は太陽から4番目の惑星で、その赤い色から、ローマ神話の軍神マルスを称えて命名された。

マルスギリシャ神話でいうアレス。先ほどのウェヌスを配偶神としています。ちなみになんで赤い色だと戦の神マルスになるのかというと、それが戦火や血の色を連想させるからだそう。

さて、この火星についてなんですが、よ〜く見てみると衛星がついているのがわかると思います。実際火星にはフォボスダイモスという2つの衛星が回っていることから、なんら変なことではないのですが、問題なのはそれが発見された時代です。先程この部屋には当時発見されていなかった天王星海王星がないことは述べましたが、火星の衛星の発見は1877年で、天王星が発見された1781年よりずっと後なんですよね。

ja.wikipedia.org

これには様々なことが考えられますが、現実的に考えるならば衛星あと付け説が個人的に一番しっくりくると思っています。(ここからは完全な僕の妄想です。長いです。

チェインバー・オブ・プラネットという部屋が作られたのはおそらく公式の情報にもあるように16世紀頃、確かにその当時は天王星海王星も発見されていなかったので、部屋にある惑星は六つ。もちろん火星の衛星も未発見なのでなしです。時代が下るにつれて天王星という惑星が発見されるが、部屋の大きさも限られており、そもそも惑星を追加するとなると太陽系儀そのものを作り直さなければならない。そうなると大変な労力がかかりますし、チェインバー・オブ・プラネットそのものにも文化的、歴史的な価値が付与されているはずです。その点で惑星を新たに追加することは不可能だった。
しかし、さらに時代が下るにつれて今度は火星の衛星が発見されます。火星の模型に衛星を追加するだけであればさほど労力はかかりませんし、少し手を加えるだけなら文化的な価値も下がらないだろう、と考えたかはわかりませんが、おっしゃ折角だし衛星つけたろ!的なノリで衛星を追加したのではないでしょうか。

もちろんここはディズニーですから、フォートレスを拠点に活動するS.E.A.は実はもっと昔に火星の衛星を発見していたが、それを公にはせず組織内の秘密として隠し、こっそりチェインバー・オブ・プラネットに組み込んでいた、なんていうロマンのある考えもできなくはないです。というかこっちの方がロマンがあるのでこっちにしましょう!()

もっとも、S.E.A.がそこまで精密な望遠鏡を所持していたかと言われると疑問の余地しかないですが。

(妄想おわり)

さらにさらに余談なのですが、Wikipediaを参照すると火星の衛星が2つであることはガリレオと同時代の天文学者ヨハネス・ケプラー(1571~1630)が予想したという旨の記述があったりします。

木星

木星、ちゃんと衛星があります

続いては木星。太陽系で最も古いとされる惑星です。

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木星(ジュピター)は最も大きい惑星で、ローマ神話最高神ユピテルを称えて命名された。偉大なるイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイは、天体観測により木星に大きな4つの月があることを発見した。

ユピテルというとあまりピンときませんが、ギリシャ神話でいう最高神ゼウスと聞くとわかる方も多いのではないでしょうか。雷の神であると知られていますね。まさにGod of Godsな存在です。

「大きな4つの月」とは、ガリレオが発見したとされる4つの衛星のことを指していると思われます。しっかりと模型にも衛星が付属していますね。これらはガリレオ衛星と呼ばれていて、それぞれイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストという名前。これらは全てギリシャ神話に登場するゼウスが愛した女性の名前です。木星の名前の由来はゼウスですから、中々粋なネーミングですね。ちなみにガリレオ木星の衛星を発見したとされるのは1610年なので、チェインバー・オブ・プラネットが16世紀のものだとすると、こちらも年代に齟齬がでます。先ほどの火星の衛星のように後から加えられた、もしくはこの部屋が出来たのがそもそもガリレオ衛星発見以後の17世紀以降とするのが妥当なのかもしれません。

ja.wikipedia.org

土星

土星、輪っかがデフォルメされててかわいいです。

最後は土星です。輪っかのイメージが強い惑星ですね。

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土星 (サターン)は2番目に大きい惑星で、 ローマ神話の農耕の神サトゥルヌスを称えて命名された。 天体観測により惑星の周囲に巨大なリングを発見した 偉大なるイタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイは、 そのリングを「土星の環」と呼んでいる。

サトゥルヌスといえば、ゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』で有名ですよね〜。初めて見たときは中々ショッキングでした。ギリシャ神話ではクロノス。ゼウス(ユピテル)の父にあたります。

木星に引き続き、こちらもガリレオのことが書かれています。S.E.A.は結構ガリレオ推しですね。「偉大なる」という形容までついちゃってます。土星の存在は先史時代から人類には知られていたそうですが、土星の象徴ともいえる「土星の輪」が発見されるのは近代に入ってからなんですね。ちなみに土星の輪の発見も木星の衛星の発見と同じ1610年のことと言われています。

なのですが、調べてみるとガリレオはそれを輪とは認識できなかったそうで、それが輪と判明するのはそれより後の1655年のことなんですね。なのでガリレオが「土星の輪」と呼んだかどうかはかなり怪しいです。

調べれば調べるほど矛盾が出てきてしまってちょっと嫌になってきますね

ja.wikipedia.org

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追記(2023/7/7)

各パネルの説明書きの上にある図ですが、この度鮮明な写真を撮影できましたので、こちらについても解説していきます。フォートレス内の文字はラテン語か英語が主ですがこちらはなぜかフランス語。後世にコペルニクスの宇宙体系を描いたものが元ネタと考えられますが、そのうちの1つにフランス語のものがあるため(下記リンク一つ目参照)、それに即して書かれているのでしょう。

コペルニクスの体系を表した図になっている

中心に太陽があり、その外側に順に水星の軌道(もしくは天球)、金星の軌道、地球の軌道、月の軌道、火星の軌道、木星の軌道、木星の衛星、土星の軌道、土星の衛星、と書かれています。その外側には"CIEL DES ETOLIE FIXE"と書かれていますが、これは訳すと恒星天のこと。恒星天は天球と呼ばれるものの一種で、天球とは古くはプトレマイオスが提唱した、惑星や恒星がその上にはりついて運動するとされた巨大な球体のことです。天動説を唱えたプトレマイオスに対してコペルニクスは地動説を唱えましたが、天球の概念に関しては彼から引き継いだとされています。(そしてこれが歴史の面白いところなのですが、コペルニクスはその伝統的な天球という概念を保持していたことが原因で、革新的な地動説へと至ったのだと言われているんですね。)

パネル上部の拡大

恒星天の外側には"L'EMPIREES OURLE JOUR DES BIEN-HEUREUX"と書かれています。フランス語に関しては全くの無勉強なので非常に拙いですが、訳すと「帝国が福者の1日を縁取る」といった感じでしょうか。(有識者の方いたら是非ご指摘お願いしたいです...)これは一体どういうことなんだということで、元ネタの1つを見てみると、該当箇所に"Coelum Empiraeum Sive Habitaculum Electorum"と書いてあります(下記画像)。こちらはラテン語で「天上の帝国、あるいは選ばれた者の住処」という意味(たぶん)。調べてみると、どうやら恒星天の外側は神と神に選ばれた者の住まいであると考えられていたらしく、恐らくそのことを示しているのだと思われます。

『ATLAS METHODICUS : EXPLORANDIS JUVENUM PROFECTIBUS IN STUDIO GEOGRAPHICO』より

読みにくいですが、一番外側には"Coelum Empiraeum Sive Habitaculum Electorum"と書いてあります


www.rmg.co.uk

kolekcijos.biblioteka.vu.lt

追記終わり

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星座

部屋の天井にはプラネタリウムのように星空が描かれていますが、これらは現代とは多少形が違えど星座が描かれているのがわかります。さらに中心には北極星を尻尾の先とするこぐま座が描かれていることから、北天の星座が描かれていることがわかりますね。

天井にはたくさんの星座が。
真ん中にこぐま座があります。

描かれている星座を紹介したいのですが、実際の部屋だと上の写真のように一度にすべての星座を見ることが出来ないので、以前フォロワーさんに教えていただいた、ディズニーシー5周年の際にフォートレスで配布されていたというペーパーを用いて紹介します。(リンク先に載ってます)

disney.fandom.com

これでチェインバー・オブ・プラネットで星空を観測する際にもバッチリですね!

(なお、よくよく見てみると実際の部屋と下記のペーパーの方で星座の形が微妙に違っていたりしますが、概ね一致しているのでここではあまり追及しません)

チェインバー・オブ・プラネットで見られる星座たち

S.E.A.のメンバーたちはこの部屋の天井を見ながら、あの位置に〇〇座があって~、などと話していたのでしょうか。ロマンがあります。ちなみに星座の周りに書いてある月名はポルトガル語。以前ブログで書いたように、フォートレスがイベリア半島にあることを裏付けているように思えます。あとこの字のフォント美しくていいですよね。

tsubasan0924.hatenablog.com

 

さて、まだまだ書きたいことがあるのですが、ひとまず今回の記事はここまでにします。次の記事ではチェインバー・オブ・プラネットの壁画について書いているのでそちらも併せてみていただけると嬉しいです!

tsubasan0924.hatenablog.com

それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました!ご意見等あれば是非お願いします🙇

 

チャオ!

参考文献

高橋憲一(2020)『よみがえる天才5 コペルニクスちくまプリマー新書